つつましく
(作品No.44 2002/7月 画紙: アルシュ36×51 絵の具:HOLBEIN)
第27回 日輝展 入選作
豊かな流れはいらない
しずしずと底から湧き出る恵みがある
葉を伝い枝を伝い
降りてくる恵みがある
透きとおった水より
熟成したこの緑の有機物がいい
純粋なものは透明だけど
“純粋”を間違えたものは
誰かれ構わず言葉のナイフを振りかざす
透明なものはどこか痛い
海へ向かう野望はもうない
つつましく淀んでここにいる
これも勇気だ 動かない勇気だ
覇気を失ったわけではない
プランクトンの偉さを知っただけ
水草の慈悲を知っただけ
喝采は要らない
誰も知らない沼でいい
心に沸き立つさざ波を
ひたひたと押さえてくれる睡蓮がいる
そして
いつもの岸辺に君がいる
僕を見つめる君がいる
僕と生きゆく君がいる
そよそよと君がいる
群馬県の吾妻郡にあった山間の沼です。貯水用の調整池の立て看板は確かにありましたが、
なんの手入れもされず普通に沼でした。数年してから分け入ってみると、コンクリートで囲われ、
コンクリートで蓋をされ、ところどころに金属の蓋が付けられ、まるで秘密のミサイル発射基地。
もう水の匂いもしません。逃げるようにお気に入りの場所から立ち去りました。
この風景はもう無いのです。
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