「夏の夜の運河」
(作品No.49 2002/8月 画紙: CANSON 42×56 絵の具:NOUBELHardPastel、色鉛筆&HOLBEIN)
第30回 サロン・デ・ボザール展 協賛企業賞受賞作 (日本コカ・コーラ賞)
夏の日の汽車は静かに滑り込む・・・真夏の大阪駅
母と再婚する男は 妙に優しく背中を押して
半ズボンの少年を父に引き渡した
「笑って」
男は汗ばむホームでシャッター押した
写真は少し嬉しかったが
久しぶりの父の横で
少年はうまく笑えなかった
それは母に見せる為の証拠の写真だった
次の夏
二人で出かけた夏の夜
川風に吹かれた吹田の屋台
父はめずらしく多めに麦酒を飲んでよく喋った
「あのひとどない思う?ほら同じアパートのあのひと・・・」
子はうつむき 黙って西瓜を食った
大きな背中ににしがみついた 自転車の帰り道
「新しい母さんはいらへん・・・」
少年は父の恋を否定した
ゆっくり更けていった熱帯夜
それから父は ずっと一人
25年の月日が流れた頃
足を患い 歳をとり
同居を望んで父が訪ねた
「お世話になります」
父が子にはじめて敬語を使った
大人になった“少年”はあの夜の事を謝ってみた
父は荷物をほどきながら静かに言った
「そんな事は忘れたよ」
小さくなった背中で
父は嘘をついた
それは悲しい夏の夜
透明水彩にはやり直しが効かない失敗があります。
最初、この絵は大失敗でした。ふがいなさに情けなくなって本気で破り捨てようと思ったのです。
でも捨てるには不憫でしょうがなくて数日そのままにしていたのですが、
どうせ捨てるなら上描きの出来るパステルでも塗りたくって、
それでもダメなら諦めようと妙な根気が芽生えました。
捨てる神を恨んでた僕は、一転して拾う神に感謝をするわけです。パステルの神に感謝です。
パステル特有の透明感のなさも今回は運良く夏の温かい夜の空気を醸してくれたのです。
透明水彩の面影はもはや倉庫の壁にほんの少ししか残ってません。
嬉しい反面、またもや自分の未熟さを再認識する作品となった訳です。
小さい頃、淋しくてオヤジの仕事場に歩いて迎えに行きました。
自転車の荷台に乗って帰る神崎川の堤防。
絵が完成したとたん、あの淀んだ夏の夜の空気を思い出しました。
そんなつもりで描いてないのに・・・絵は不思議です。
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