「空の国」


(作品No.48 2002/8月 画紙: Muse KENAF F6 絵の具:HOLBEIN)
第7回 ポテトチップス展 入選作



小さい頃 空飛ぶ夢をよく見たんだ
いつも縁側から物干し竿の隙間を縫って
麦の穂先におなかをこすりながらぢりぢりと上昇してゆく
国立病院の上を飛びサイレン山へ
なにも使わずただ気の力だけで・・・

エネルギーが出なくて道路すれすれに
歩くより遅く飛んだりもした
とてもパワーが必要で そしてよく落ちた
あれは一体何の夢だったんだろう

そして青年の頃
荒井由美の「飛行機雲」に出会った
空に憧れて空を駆けてゆく 空に召される子供の運命の詩だ
無性に心に響いた 泣いた
泣いて考えた・・どうして僕は空を飛ぶ夢をみたんだろうと
ひょっとして僕はいつも生と死の線上にいる命危うい少年だったのか
自力で空を飛ぶ夢で心の力をつけなさいと神様が送り込んだ夢だったのか
あれは一体何の夢だったんだろう

そしてもっと大人になった頃
ポール・サイモンの「AmericanTune」に出会った
「僕はゆうべ空飛ぶ夢を見た・・空から自由の女神が沖へ出て行くのが見えた」
憂国の詩だった アメリカの事なのに体が震えた
あ、同じ夢を見た奴がいる・・・

その夜久しぶりに空飛ぶ夢を見た
こぶしを突き上げ物干し竿の間をすり抜けて・・・
この夢には一体何の意味があるんだろう

あきれるほど大人になった夏
北国の大地であの夢の事を思い出した
ぐいぐいと高い空だった
ゆっくりと命の風が流れていた
飛びたくなった
あの夢はここに来る為の夢?

そしてあの夢を見なくなった
いいのかなこれで・・・

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